覆面のストリート・グラフィティアーティストバンクシー(BANKSY)の一面を覗ける日本初の企画展【バンクシー展 天才か反逆者か / BANKSY GENIUS OR VANDAL?】が横浜で開催しているという情報をキャッチ。
“時の代弁者”が残す影を追って、横浜駅直通の複合エンタメ施設「アソビル」へ行ってきました。
横浜と大阪で開催されるこの「バンクシー展」は、“コレクターのコレクションが集結する世界巡回展”という内容の打ち出し。
よくある名画のアート展とは異なり、作家バンクシー本人が関与しているものではなく、無認可の展覧会という所にユーモアを感じました。
バンクシーは自身の公式サイトにて、本人の合意なしに開催された展示会の情報(開催地・入場料)をリストアップし、“フェイク”と批判しているそう。笑
バンクシー作品は元来、“異国の壁”に描かれたもので、ほとんどの作品は現物を国内で見ることが叶わないものばかり。
壁画として描かれた場所を名付けるなら、ギャラリーアウトサイド。
そんな《外》だからこそ存在の意味があるストリートアート、ウォール・グラフィティの世界を展示会という箱の中でどこまで構築できるのか。
《外》で成立するアートを、《内》にどうおさめてくるのか。
日頃、作家のプロモーションに関わっている身としては、主催側が鑑賞者にどうパスを投げているのか?が、とても興味深く…(^^)
実際に鑑賞してみると、演出の大部分をインスタレーション[※]で見せている「バンクシー展」は、来場者をバンクシーの世界観へのめり込ませる没入感の演出が秀逸で、とても見応えのある企画展になっていたというのが率直な感想です。
[※]… “インスタレーション(Installation art)”とは?
ある特定の室内や屋外などにオブジェや装置を置いて、作家の意向に沿って空間を構成し変化・異化させ、場所や空間全体を作品として体験させる芸術。
空間全体が作品であるため、鑑賞者は一点一点の作品を「鑑賞」するというより、作品に全身を囲まれて空間全体を「体験」することになる。
―出典:Wikipedia
チケット料金は1,800円でしたが、この金額を裏切らず、映画1本分は楽しめるボリュームに満足な時間を過ごすことができました。
館内は写真撮影OKだったので、当ブログでは、わたしが感じた「バンクシー展」におけるインスタレーションを写真を交えながら具体的に列挙して、掘り下げていきたいと思います。
―― この記事を書いた人 ――
アートディーラー
babi/バビ
神奈川県横浜市にあるアートギャラリーに勤務。普段は画商の仕事をしながら、好きなアートやアーティスト、展覧会について個人的見解を綴るbibiART(当ブログ)を運営しています。 プロフィール詳細→
「バンクシー展 天才か反逆者か」展示会場について
今回横浜で開催されている「バンクシー展」会場は、横浜駅みなみ東口直通の体験型エンタメ施設「アソビル」の2階にある常設体験イベントフロア「ALE-BOX(エールボックス)」です。
展示会場は駅直通の体験型複合施設「アソビル横浜」
アソビルの建物自体、遊休施設となっていた横浜中央郵便局の別館(郵便局裏手)をリノベーションして作られた暫定施設です。
そのため、建物の作りが古い部分も残されており、それが逆に今回の「バンクシー展」の雰囲気づくりに一役買っていた印象もあります。
コインロッカーやお化粧室(授乳施設やベビーカー置き場も)は1階にあります。
大きな荷物は持ち込めない場合があります。余分な荷物は預けて、身軽にゆっくり楽しみましょう♪
こちらが「バンクシー展」会場のエールボックス入口。
ここからは床がビビットな赤い絨毯に一変。
バンクシーの影絵…黒い作品を引き立てるイメージカラーの1つが、“赤”。
受付前からすでに「バンクシー展」への導入が始まっている…?
「バンクシー展 天才か反逆者か」の会場エールボックス内の様子
郵便局を改装した建物の造りということもあって、一般の美術館と比べ展示に限界があるのでは…と憶測してしまいましたが…予想を上回るボリューム!
現品がない《壁画》作品たちも、そのスケールが伝わる様、現地の写真を転写しボード一面で見せるなど、展示方法は考えられていました。
アソビル自体の造りがかしこまっていないせいか…かえって《ストリートアート》《グラフィティ》の雰囲気が出ているのでは?
想像以上の作品ボリュームがあった本展、しっかりご覧になりたい方は用事を済ませてから余裕を持って会場に足をお運びください。会場には動画・映像などを流す演出も7〜8ヶ所にあるため、じっくり見たいタイプの方だとけっこう時間がかかります。
鑑賞の仕方は人それぞれなので、無心でささっと観れば30分でも回れますが…もったいないです。
わたしの鑑賞時間は、2時間30分でした♪
「バンクシー展 天才か反逆者か」鑑賞におけるポイント
記事本文に入る前に、鑑賞におけるポイントを3つだけご案内します。
(1)原画作品に注目
70点以上もの作品が展示される本展ですが、中には本物の原画作品も数点あります。
原画の場合、キャプション(=作品解説文)欄の作品タイトルの下に《オリジナル・アートワーク》と記載されています。必見!
アートコレクターの方々による協力のもと展示が叶った1点物の原画だから貴重なのです。
会場には、(直筆の手紙など含め)およそ14点ほどの原画作品がありました。
画用紙やダンボール板、キャンバス…さまざまな支持体(絵や字が描かれている土台、素材のこと)に描かれた直筆のストロークが味わえる原画はお見逃しなく!
(2)有名作品の展示
ニュースに取り上げられることも多いバンクシー。
アートに精通していない方でも、一度はバンクシー作品を目にしたことがあるのでは?
とりわけバンクシーを一躍有名にした作品が、この『Girl with Balloon/ガール・ウィズ・バルーン』にまつわる“シュレッダー事件”。
2018年10月5日、イギリスの老舗オークションハウス「サザビーズ」にて、この『ガール・ウィズ・バルーン』が落札されました。当時のレートで1億5,000万円もの価格がついたこの作品は、落札の次の瞬間、あらかじめ額縁に内蔵されていたシュレッダーによって裁断されてしまいました。
シュレッダーを仕掛けたのはバンクシー本人。
「バンクシー展」にも、シュレッダーを仕掛ける様子やオークションでシュレッダーが作動する様子の動画も流されています。
事件後、作品は『Love is in the Bin/愛はゴミ箱の中に』と改名されました。
「バンクシー展」では、紅一点の風船を引き立たせるようなシンプルな額装で展示されています。
いま思うとですが、オークション出品時の額装はゴージャスすぎて、絵柄に合わないデザインですよね。フレーム自体がフェイクという作品です。
(3)音声ガイドを事前にインストール
鑑賞前にやった方が良いことが2つあります。
それはご自身のスマートフォンに音声ガイドアプリ「izi.TRAVEL」をインストールすること。
そして当日は音声ガイドを聞くイヤホンを持参することです。
これを準備しておけば、会場にある展示品70点、各セクションについての解説を含む計90項目ものガイドを楽しめるのでおすすめです。
特に1人で行かれる方は、解説を聞きながらバンクシーの世界観に没入できますよ♪
それでは、わたしが「バンクシー展」にて注目したインスタレーションのポイントについて書いていきたいと思います。
「バンクシー展 天才か反逆者か」秀逸な3つのインスタレーション
一般的にアート展の主催者は、企画展それ自体が一つの作品になるよう仕上げます。
企画構成、配置、額装、照明…は当然のことながら、作家に関連のある映像、再現された大・小の道具などで、会場をどう《演出》するかにかかっています。
この演出次第で、来場者がその世界観へのめり込める浸透度も変わってきます。
「バンクシー展」では、その演出の大部分をインスタレーションで見せています。
会場に入るとまず、「アーティスト・スタジオ」というエリアで、バンクシーが出迎えてくれます。
覆面作家のアトリエは何をもとにここまで再現されているのか…比較してみたい方はバンクシー監督作品の映画「EXIT THROUGH THE GIFTSHOP/イグジット・スルー・ザ・ギフト・ショップ」をご覧下さい。
“グラフィティ”…直訳すると“落書き”ですが、「アーティスト・スタジオ」で流されている動画からは、作家の手際の良さから作品精度の高さが伝わってきます。作品を見せる前に“過程”から作品への期待感を高める流れが素晴らしいですね。
アート初心者にもわかりやすいよう、《版画》についての解説などもあり親切な見せ方。
知らない専門用語が羅列してあるだけで、美術との距離感が開いてしまいますものね…(´-ω-`) )))Zzz
覆面という事実、会場の薄暗さ、アーティスト・スタジオの再現という冒頭のつかみから、一気にバンクシーの世界観へ没入できた気がします。
ではここからは、わたしが感じた「バンクシー展」におけるインスタレーションを、「展示構成」「額装」「ライトアップ」の3ブロックに分けてご紹介します。
展示構成―エリアパフォーマンスからみる「物語の脚本」
冒頭の「アーティスト・スタジオ」以降、一辺倒でないバンクシーのアートワークを、どういった展示構成で見せてくれるのか??
展示構成は、言わば作家の背景を語る脚本。
本展では、以下4つの展示構成(セクション)でバンクシーアートの一貫性を上手にまとめていたと感じました。
展示構成①:CONSUMPTION/消費
展示構成②:POLITICS/政治
展示構成③:PROTEST/抗議
展示構成④:WAR/戦争
わたしなりの解釈でご紹介していきます!
展示構成①:CONSUMPTION/消費
バンクシーの遊び心を感じさせ、そのユーモアのセンスを個人的に最も楽しめたのがこの《消費》セクション。
「広告はルード(失礼)だ。今や、広告をなしに街を歩くことは不可能だろ。
ー出典:「STUDIO VOICE」(2004年8月号)
結局、広告を出せる金を持っている企業や資本家だけが、大衆に向けてメッセージを発することができるんだ。」
…と話すバンクシー。
街中にはびこる広告・ポスターによる人々への“洗脳”を啓発するような作品が並ます。
名画や宗教画に登場するような聖職者が崇めるのは、“セールは今日で終わり”という皮肉な広告文句だった『セール・エンズ』。
商品を探して“狩り”をする消費主義者も、生産者により“狩られる”立場である…という消費パラドックスが見える『バーコード』。
古典を引用しながらも、コミカルな表現が今風でもあるバンクシー作品。
デザイン性も高いことから、若い世代にもウケがよく、会場には若い層の観客がたくさんいらっしゃいました。音楽同様、クラシックだけでなく、HIP HOPもありなんだぜ…と言わんばかりにアート展への入口を広げる作風なのだと感じました。
話題の『ケイト・モス』スクリーン・プリント
この『ケイト・モス』作品の元になったのは、20世紀を代表する“KING OF POP ART”、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol、1928年8月6日~1987年2月22日)が作品化した『Marilyn Monroe/マリリン・モンロー(1967年)』。
MoMA(ニューヨーク近代美術館)へ行ったときに撮影
当時大スターだった一人のブランド女優を“ポップ・アート”のモチーフとして起用したもので、それまでなかった「広告アート」というジャンルを築いたアンディ・ウォーホルへのオマージュ作品でもあります。
全色、同エディションで揃えられている?
もともとアンディ・ウォーホルがシルクスクリーンという版画技法で制作していた作品で、バンクシーもスクリーンプリント技法を駆使し、ケイト・モス作品を製版しています。
この『スープ・カンズ』(技法:オフセットリトグラフ)も、アンディー・ウォーホルによる『Campbell’s Soup Cans/キャンベルのスープ缶(1962年)』のオマージュ作品ですよね。
MoMA(ニューヨーク近代美術館)へ行ったときに撮影
原画がない、という意味ですべてのエディション(=シリアルナンバー)がオリジナルにもなる版画技法。
こういった版画を鑑賞するときは、隅に記載されている限定エディションもご注目ください。世界で何枚ある作品なのか?が、分母に記述されています。
バンクシーの“思想”を育んだ先人アーティストたちの気配…
バンクシー作品には先人の存在、影がはっきりと見えます。
②展示構成:POLITICS/政治
議会にいるのは人間ではなくチンパンジー。類人猿と人間の愚かさをシニカルに描いた作品『モンキー・パーラメント』。原画は横4m20cm×縦2m50cmという大きさ。
2019年、初公開から10周年を記念して再展示した際、EU離脱で混迷するイギリス議会を予言した作品として脚光を浴び、その後オークション出品されると、バンクシー作品の最高落札価格(約13億円)を更新しました。
エリザベス女王の像をサルに置き換え、君主制を揶揄するバンクシーの思考が見て取れる『モンキー・クイーン』。数あるモンキーシリーズの1つです。
「俺らの街を管理している役人にはグラフィティはわからない。 儲けが得られないものには価値がないと思っているし、グラフィティに価値を認めれば、連中の主張は 説得力を失うから。」
ー出典:「Wall and Piece」バンクシー著(パルコ出版)
会場を監視するかのようなコッパー(警官)シリーズ
ほっこり、かわいく見えるはずのこのマークですが、警官の制服のリアルさ、陰影表現がスマイルマークとのミスマッチさを誘い、不穏な気配を漂わせてくる…。
バンクシーが警察に見つからずに、できるだけ短時間で大判の作品を残すために活用した「ステンシル技法」。型を使い、素早く、絵やテキストを何度でも作成することが可能で、会場の壁に配置されたスマイリー・コッパーたちも、バンクシーの手法を彷彿とさせます。
繰り返し陳列されることで威圧感が増してきます。
繰り返しの力には、作品に焦点を当てさせるトリックがあります。完全に数の原理ですね。
③展示構成:PROTEST/抗議
出た …!
先ほどあった、通路壁のインスタレーションは、この『ハブ・ア・ナイス・デイ』を再現したものだったのでしょうか。
絵とフォント(字体)の塩梅もおもしろい まるでNIKEのスウェットロゴのように入っているサイン
所有者に無断で絵を描くストリートアートは、例え運よく警察に見つからず描ききれたとしても早ければ数時間後に通報され、消されてしまう一過性のものでもあります。
「俺にとって大事なのは、作品の中で自分の主張を明確にし、作品を通じて、自分が表現したことを上回る何かを引き出すことだ。」
ー出典:「JUXTAPOZ」誌(2015年10月号)
元来のストリートアートはSNSのつぶやきに似た、言わばフロー型のアート。
しかし、覆面性のパフォーマンスが話題を呼び、時代が追いついて来たことでSNSの力も加わり、瞬く間に世界へ広がり残されるべき作家の作品へとなっていきます。
『不法侵入をお許しください』。
絵画作品はタイトルにこそ絵柄の真意あり。
場所・時を選び抜いて描く計算されたバンクシー絵画ですが、器物損壊、建造物損壊罪の罪に囚われても不思議でないケースもあります。
子どもがペイント材を片手に、祈りを捧げる姿を見たときに、一瞬でもほだされない人がいるだろうか…。
数々の警察との攻防から生まれたアイデアなのでは…。
心理をつく《ひとコマ》《ひとこと》で、声明を示唆させるのが非常にクレバーですよね。
『キープ・イットー・リアル』オリジナル・アートワーク 側面にサイン
サンドイッチ型広告バナーを身につけたサルの表情が悲しげな『キープ・イット・リアル』。
メディアに踊らされ、個々の個性が失われるこの時代。
演じず、ありのままの自分でいることの大切さを説いた作品。
このように、社会に対しマイノリティからマジョリティへの抗議、といった印象を受ける作品も《抗議》セクションにはあります。
ちなみに、こちらの『キープ・イット・リアル』も原画です。
よく見ると、側面にサイン(のステンシル)が…サインもスタイリッシュです!
④展示構成:WAR/戦争
テーマが重くのしかかってくる《戦争》セクションですが、反戦を訴えるバンクシーの“平和を願う気持ち”が独自の作風からも伝わってきます。
『ハッピー・チョッパーズ』 『ロング・ウォー』 『ナパーム弾』
マクドナルドとミッキーに手を取られる少女が印象的な『ナパーム弾』。
ベトナム戦争の戦火の中で撮られた実際の写真を使用し、物議を醸しました。
見るには心苦しい感情が起こる作品ですが、ベトナム戦争を知らない世代にも今いちど惨劇を伝えるキッカケをつくる…という目的もある一作です。
負の輪廻を繰り返させまいと、掲げられる平和への旗の元には、いつの時代もこうした作品を通し、その第一声をあげるアーティストの存在があります。
“Flower Power”, photograph by Bernie Boston
アメリカンヒッピーが「武器ではなく、花を」を合言葉にした“Flower Power”活動。花を平和の“武器”として、反体制・非暴力ユートピアの象徴に。
そんな活動が、バンクシーの『ラブ・イズ・イン・ジ・エアー』の構想になったとされています。
ちなみに、原画作品が多く展示されているのが《戦争》セクションの魅力でもあります。
『バッド・ミーニング・グッド/悪こそ善なり』 側面にサイン
『ヘビー・ウェポンリー』 側面にサイン
ここでも側面のサインは必見ですよ♪
その他、上記4つのセクション以外にも《監視カメラ》《ウォールドオフ・ホテル(世界一眺めの悪いホテル)》《ディスマランド》など、バラエティに富んだセクションが満載でした。
『監視カメラ』 『ディズマランド』 ディズマランド バンクシーが建てたThe Walled Off Hotel パレスチナの”世界一眺めの悪いホテル”
非常に盛りだくさんで、映像やポスター、大・小道具などのインスタレーションから、後半はテーマパークに来ているかのように各々のエリアパフォーマンスを楽しむことができました。
額装というインスタレーション
もともとが展示不可能な“ウォール・グラフィティ”ということもあり、版画やポスターでどう臨場感を出すのか?を楽しみに鑑賞していました。
大道具のインスタレーションは実際、LIVEで楽しむのが一番なので♪
ここでは、わたしが思う「バンクシー展」の最たるインスタレーション、「フレーミング(=額装)」を取り上げたいと思います!つまり額装です。
元来、絵と額はセットで見るのが常ですが、バンクシー作品は屋外に描かれる壁画。だからこそ「バンクシー展」はフレーミングされたバンクシー作品を楽しめる良い機会です。
アート展において、主催者側がどのようにパフォーマンスするか。生かすも殺すも、すべてはフレーミング次第、なのです。
異世界への窓、となる額縁。
最近は、額縁に作品を納めたくない!という現代作家さんの主張も多く耳にします。しかしながら絵画と共にある額の歴史を知る画商としては、額装はとても重要な、もう一つの芸術なんですよね。
それでは「バンクシー展」にて展示されていた作品の中から、額を3つの仕様に分類して取り上げてみます。
フレーム仕様_1:クラシックな額
刃先が入ると、より高尚な雰囲気に。
作品のモチーフや、テーマに合わせ、レリーフ仕様のゴージャスなものをあてています。
数世紀前の西洋絵画を展示する美術展などでは、こういった額がほとんどですが、反対に「バンクシー展示」では、このタイプの額装がレアで数点しかありませんでした 。
フレーム仕様_2:モノクロ+カラーの額
『セール・エンズ』 『パルプ・フィクション』 『ボム・ミドル・イングランド』
あえてモノクロ・シンプルなフチにすることで絵の中の色が引き立ちます。額縁に別の色が入ると、絵のテーマが台無しになってしまうことも。逆に“差し色”として活かせる場合もあるのでおもしろいところです。
荒涼とした雰囲気の絵柄に合う、鈍い赤色をあてて中央の看板と合わせた配色。
『ストップ・アンド・サーチ』 グローブだけ水色 サインも水色
『ストップ・アンド・サーチ』では、尋問する警官のグローブが水色なのですが、よくよく見るとバンクシーのサインも同色の水色。
色の使い方をよく分かっている作家さんだな…と思ってしまいます。サインを入れる位置にもご注目下さい♪
それにしても…ドロシーの愛犬テトのお顔がシュール…( ᵔᴥᵔ
フレーム仕様_3:作品を裸で見せる(アクリル額装)
『ファミリー・ターゲット』オリジナル・アートワーク サイン
ダンボール紙の素材が剥き出しになるようにアクリルケースに入れられた原画作品『ファミリー・ターゲット』。
作品を裸で見れるネイキッド感がステキ♪
でもアクリルって高価なんですよね。
支持体(絵や字が描かれている土台、素材のこと)のテクスチャーが伝わってくるのがアクリル額の素敵なところです。絵を覆う保護板としてだけでなく、こういったアクリル2枚で挟むフレーミングも、スタイリッシュ☆
私たちのギャラリーでも、《額》ではなく、中身だけを見せたい作品などに人気です。
同じ絵柄でも、色彩パターンに合わせてちゃんとフレームを変えてらっしゃる。主催者側のこだわりを感じてしまいます。
その他にも、おもしろい額装作品があったのであわせて紹介してみますね。
『アンダーグラウンド・テラー・タクティクス』 多重マット
こちらも原画作品で、少し珍しいモダンな多重マット。
薄い紙の支持体でも、作品に奥行きが出てきます。
もしや…絵柄のバーコードと合わせられている…!?
マットの色が赤というだけで、ときにロイヤルに、ときにモダンに作品を引き立てます。色彩のハレーション効果を上手く使った赤×黒が際立つバンクシーカラーも魅力的です。
支持体が、厚みあるキャンバスか画用紙かによっても額の幅が変わりますね。
キャンバスの存在感をそのままに残したり、マットなしの“浮かし額装”で紙の端部まで露出させたり…多種多様です。
たかが額装、されど額装。
ファッション同様、額にも時代性や様式があり…決して主役にはならない受け身の存在ながらも、構図やモチーフを強調する必要不可欠な存在。
奥深いものなんですよね。
作品と合わせ、額装(フレーミング)にも着目できれば、これから足を運ぶアート展の楽しみ方が1つ増えますよ♪
原画作品に関しては、コレクター様が作品を所蔵後に額をカスタマイズしたか、既に額装がセットされた状態で作品を所蔵されたか…の場合があります。
ライトアップ(照明)
展示する上で作品を際立たせる、作品に命を吹き込む作業が、ライトアップ(照明)でもあります。
一般的なアート展で館内照明が暗く感じたことがあると思いますが、すべて各々の作品に合わせた仕様や演出です。
例えば、数100年前の油彩画作品展示の場合。
照明を抑え、館内を暗くしていることが多く見受けられますが、これは作品保護の観点や、絵画が描かれた当時のアトリエの明るさを再現したものだったりします。
ライトが反射しないよう、その絵肌の艶や光沢を一番美しく見せる角度に調節、調光されています。
写実的な絵画などは、“奥行き”を生み出すために、光と影が表現されています。
作品に失礼のないよう絵に合わせ、会場の照明も光と影のコントロールをするのです!
そんなライトアップ、「バンクシー展」ではこんな感じでした。
会場はかなり暗く、まるで一つのスクリーンを見せられているような感覚に。スポットライトタイプの照明に拡散レンズがつているのか(?)、光が拡散し、作品が発光しているかのように浮き上がって見えます。
作品自体が間接照明の様な役割に見え、絵画展とは思えないムード。
改めて見るとBARにいるような仄暗(ほのぐら)さですね。
光源(天井からの照明)が遠いので、ボヤっと映る自分の影すら壁に強調されて、作品の一部に感じます。
そしてセクションによってライトアップ方法は一変。
蛍光灯で「いつもの日常」を演出 こっちはまるで映画館の入口のよう ネオンのような電球照明
いろんな見せ方で鑑賞者を非日常へ引き込みます。
展示構成、額装、ライトアップ、この3つの演出によってバンクシーの世界観が見事に構築され、またそこに鑑賞者が知らず知らずの内に没入させられていたのではないでしょうか。
「バンクシー展 天才か反逆者か」グッズショップ
会場内の出口付近には、グッズ販売エリアがあります。
販売していたグッズは、ざっとこんな感じ↓
Tシャツ 図録(赤と白は内容同じ) ステッカーなど ソックス スタンプ 雑誌「カーサ ブルータス」
こういうグッズもバンクシー本人の収益には…ならなそうですね。笑
「バンクシー展 天才か反逆者か」開催概要
展覧会名:
「BANKSY GENIUS OR VANDAL?」(英名)
「バンクシー展 天才か反逆者か」(和名)
日時指定チケット料金:
(平 日)大人1,800円、大・専・高1,600円、中学生以下1,200円
(土日祝)大人2,000円、大・専・高1,800円、中学生以下1,200円
※横浜会場のチケット料金です。大阪会場は9月1日より前売り開始予定。
URL:
https://banksyexhibition.jp
横浜:アソビル
会場:アソビル(神奈川県横浜市西区高島2-14-9 アソビル2階エールボックス)→Googleマップ
期間:2020年3月15日(日)〜9月27日(日) → 10月4日(日)13時入場回まで 10:00〜20:30(最終入場20:00)※会期中無休
大阪:大阪南港ATC Gallery/ITM棟2階
会場:大阪南港ATC Gallery/ITM棟2階(大阪府大阪市住之江区南港北2-1-10)→Googleマップ
期間:2020年10月9日(金)~2021年1月17日(日) →24日(日) 平日10:00~17:00(10月は20:00まで)土日祝10:00~20:00 ※12/31、1/1は休館
名古屋:旧名古屋ボストン美術館[金山南ビル]
会場:旧名古屋ボストン美術館[金山南ビル](愛知県名古屋市中区金山町1-1-1)→Googleマップ
期間:2021年2月3日(水)~2021年5月31日(月) 10:00~20:00(最終入館は19:30)
福岡:ユナイテッドラボ
会場:ユナイテッドラボ(福岡県福岡市中央区大名1-3-36)→Googleマップ
期間:2021年7月2日(金)~10月31日(日) 10:00~20:00(最終入館は19:30)
広島:ひろしま美術館
会場:ひろしま美術館(広島県広島市中区基町3-2)→Googleマップ
期間:2021年11月6日(土)~12月5日(日) 9:00~17:00 ※金・土は~19:00(入館は閉館の30分前まで)
東京:WITH HARAJUKU
会場:WITH HARAJUKU(東京都渋谷区神宮前1-14-30)→Googleマップ
期間:2021年12月12日(日)~2022年3月8日(火) 10:00~20:00 ※2/24(木)は休館(入館は閉館の30分前まで)
札幌:東1丁目劇場(旧北海道四季劇場)
会場:東1丁目劇場(札幌市中央区大通東1-10)→Googleマップ
期間:2022年3月24日(木)~7月3日(日)
※未就学児入場無料
※QRコードチケットでの入場となります。スマートフォン提示もしくはプリントで持参して下さい。
※日時指定とは、時間内でのご入場をご案内するもので、待ち時間がなくなるわけではありません。
※学生券を購入された方は学生証、生徒手帳が必要になります。
「バンクシー展 天才か反逆者か」総括
誤解や批判を恐れず、声明を《ひとこと》に集約する独自の手法。
「愛は壁にもある!」
同時に、時代、時代で‟愛と平和”の旗を掲げてきた歴代の作家同様、わたしたちと共に今の時代を見つめるバンクシーからの愛を、《壁面》から感じ取ることができました。
ー Art is a wall. ー
バンクシーの手法に一部批判も集まりますが、バンクシーが描くひとコマ、添えられるひとことに、彼が何を止めたいのか、広めたいのかを見いだすことができれば、案外、シンプルな願いが込められていることに気付けるかもしれません。
展示会場、壁のいたる所に、バンクシーが残した過去の《つぶやき》などが印字され、ここからもバンクシーの気配を感じさせていました。
バンクシーの言葉(祈り)は、作品タイトルにそのまま分かりやすく表れている気がします。
わかりやすい = 伝わりやすい
誰もが知る、そして関わる事象をモチーフにすることで、知識がないと読み解くのがむずかしい“絵画のジャンル”という壁を1つ取り払ってしまったこと。
これが1つ、バンクシー作品が、観衆から関心の絶対数を集めたポイントなのだと思います。
もちろん、約30年もの間、鍛錬されてきたバンクシーによる “ステンシルアート”というグラフィティの技術も素晴らしいものです。
“オリジナル・アートワーク”では、
その洗練された、バンクシーの潔い筆致(筆のストローク)を見ることが出来ます。
お見逃しなく、ご注目ください。
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アソビルの施設概要
住 所 | 〒220-0011 神奈川県横浜市西区高島2-14-9 アソビル(Googleマップ→) |
交 通 | 横浜駅みなみ東口通路直通、横浜駅東口すぐ |
時 間 | 全館営業時間 10:00~22:00 (各フロアによって異なります) ※1階通路の通り抜け可能時間は7:00~25:00です。 |
駐車場 | なし。近隣駐車場をご利用下さい。 |
URL | https://asobuild.com/ |
アソビル開催のイベント
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