印象派展が東京都美術館で開催!詳細

100年のアート変遷をたどる「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館」ピカソやマグリットの競演

トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクションの外看板写真
この記事は約26分で読めます。

みなとみらい21地区のど真ん中にある「横浜美術館」は、幕末~現代までの国内外の美術が所蔵されており、まさに横浜を代表する美術館。

そんな横浜美術館が、愛知県美術館、富山県美術館と組んで欧米の20世紀美術を概観する企画展「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」を開催していると知り、実際に足を運んできました。

夕方行きましたが面白くて時間が足りず、後日再来場してきました!

トライアローグ展中の横浜美術館館内写真
横浜美術館エントランス

本展では、3館が誇る西洋美術コレクションから、ピカソ、クレー、ミロ、エルンスト、ダリ、マグリット、ポロック、ベーコン、ウォーホル、リヒターなど、20世紀美術史を彩った巨匠たちの作品を厳選し、絵画を中心に約120点が紹介されています。

色や形、画材、素材などから時代を経るにつれての《変遷》が分かる、とても興味深い企画展でした。

「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」

■神奈川会場:横浜美術館(神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1)→Googleマップ
期間:2020年11月14日(土)から2021年2月28日(日) 10:00~18:00
※休館:木曜(2月11日を除く)、2月12日(金)

■愛知会場:愛知県美術館(愛知県名古屋市東区東桜1-13-2)→Googleマップ
期間:2021年4月23日(金)~6月27日(日) ※予定

■富山会場:富山県美術館(富山県富山市木場町3-20)→Googleマップ
期間:2021年11月20日(土)~2022年1月16日(日) ※予定

―― この記事を書いた人 ――

アートディーラー
babi/バビ 
神奈川県横浜市にあるアートギャラリーに勤務。普段は画商の仕事をしながら、好きなアートやアーティスト、展覧会について個人的見解を綴るbibiART(当ブログ)を運営しています。 プロフィール詳細→

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目次

「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館」とは?

企画名の“トライアローグ”は、《鼎談(ていだん)…3者による話し合い》を意味します。

横浜美術館、富山県美術館、愛知県美術館、20世紀の美術コレクションに定評のある、これら3館が紡ぎあげた、欧米の20世紀美術を概観するコレクション展が「トライアローグ展」です。

トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクションのフライヤー

“トライアローグ”というタイトルにちなみ、本展は数字の“3”をキーワードに展示を「3つの章立て(第1章~第3章)」「30年区切り」で構成され、1902年~1991年までの約90年間で歴史に名を残した作家作品を展観。

美術館入口から、20世紀最大の巨匠!パブロ・ピカソの作品が出迎えてくれます。

トライアローグ展の展示風景(横浜美術館)
(左)『座る女』、(中)『肘かけ椅子で眠る女』、(右)『肘かけ椅子の女』いずれもパブロ・ピカソ作品
トライアローグ展の展示風景 ©横浜美術館

初期の「青の時代」の典型作『青い肩かけの女』をはじめ、絵の中で分解と再築を繰り返す“キュビズム”の実験を経た後の「新古典主義時代」の作品『肘かけ椅子の女』など…3館の所蔵作が個々にピカソの画風バリエーションを魅せてくれるのです。

トライアローグ展、3つの美術館を紹介

まず、そもそもの話である、「トライアローグ:20世紀西洋美術コレクション」展を構成する大型公立美術館3館をご紹介します。

  1. 横浜美術館…神奈川県横浜市(1989年)
  2. 愛知県美術館…愛知県名古屋市(1992年)
    1955年開館の愛知県文化会館美術館のコレクションを引き継ぐ
  3. 富山県美術館…富山県富山市(2017年)
    1981年開館の富山県立近代美術館のコレクションを引き継ぐ

それぞれのコレクションの厚みのある部分は前面に押し出し、手薄な部分は補い合う――各館のコレクションの重点を置く時代・地域のバランスが異なるからこそ、本展の充実した展示構成が可能となりました。

出典:トライアローグ公式サイト「本展のみどころ」

今回訪れたのは横浜美術館ですが、まさに3館で1つを織りなす企画展でした♪

1. 横浜美術館…神奈川県横浜市(1989年)

横浜美術館の外観写真
横浜美術館

神奈川県横浜市のみなとみらい21地区(36街区)にある「横浜美術館/Yokohama Museum of Art」(略称は「YMA」)。

1989年3月に横浜博覧会のパビリオンとして開館し、博覧会終了後の同年11月に正式開館しました。

幕末以降の横浜ゆかりの作品群、セザンヌ、マグリットといった有名作品に加え、19世紀後半から現代にかけての国内外の美術作品約1万3,000点を幅広く所蔵。

横浜が、日本の写真興隆期における一大拠点のひとつにあげられることから、写真の収集・展示に力を入れているほか、「みる、つくる、まなぶ」を三本の柱とする複合美術施設でもあります。

横浜美術館館内写真

アシンメトリーな外観と、吹き抜けの開放的なグランンドギャラリー。

横浜美術館は、3年に1度開催される「ヨコハマトリエンナーレ」のメイン会場の一つとしても利用されています。

2. 愛知県美術館…愛知県名古屋市(1992年)

愛知県美術館が入る愛知芸術文化センター外観
愛知芸術文化センター内にある愛知県美術館(8階・10階)

愛知県名古屋市東区にある「愛知県美術館/Aichi Prefectural Museum of Art」(略称は「APMoA」)。

1955年2月に開館した愛知県文化会館美術館(サンフランシスコ講和条約締結の記念事業として建設された施設)を前身とするこの美術館は、パブロ・ピカソ、アンリ・マティス、グスタフ・クリムトを始め、梅原龍三郎、安井曾太郎、横山大観、菱田春草など、国内外の20世紀美術を中心に収蔵しています。

展示室10室を有する8階のギャラリー面積は、愛知県内最大規模(計3,113㎡)を誇ります。

3. 富山県美術館…富山県富山市(2017年)

富山県美術館 アート & デザインの外観写真
富山県美術館 アート & デザイン

富山県富山市木場町にある公立の「富山県美術館/Toyama Prefectural Museum of Art and Design」(略称は「TAD」タッド

コンセプトの1つは、“アートとデザインをつなぐ世界で初めての美術館”!

2017年3月に一部先行オープン、8月に全館開館。

20世紀以降の近・現代美術作品とポスターやチェア(椅子)などのデザイン作品を中心に約16,000点(時価評価額約270億円)収蔵し、展示紹介している美術館です。
1981年開館の富山県立近代美術館のコレクションを引き継いでいます。

トライアローグ展を楽しむために知っておきたいモダンアートのこと

平面(絵画)作品にとどまらず、半立体や立体(巨大オブジェ)作品、映像で見せるフィルム作品などなど…第二次世界大戦以前の美術を指す「近代アート」から、第二世界大戦後(20世紀全体の美術を指す場合もある)の「現代アート」を展観させ、近代、現代の作風を一度に楽しめるアソート仕様の「モダン&コンテンポラリーアート展」なのです。

そもそもモダンアートとは?

ニューヨーク近代美術館で撮影した写真
アンリ・マティス『ダンス』
アンディ・ウォーホル『Marilyn Monroe I Love Your Kiss Forever Forever』

↑いずれもMoMA(ニューヨーク近代美術館)にてバビが撮影した写真です。2015年。

頭を空っぽにして、心のまま感じる!こともアート鑑賞の醍醐味(自由さ)ですが、作家の制作意図を知ることーーWhat for 〜 を知ることがポイントです!

ちなみに…「現代アート」とは、主に、私達の現代社会が抱えている疑問や問題点をひも解き、社会や美術史への批判性を投影している作品のことを指します。第二次世界大戦(1945年)以降の芸術を指すこともあり。

その作家が、何のために、何を想い、時代の新しい画風を求めたのか?

約100年前のアートですが、それ以前の遠い美術史「絵画のヒエラルキー」があった時代には考えられない、“表現の自由”を開拓していったゴールデンエイジの作家たちが集うのが、1900年代前半……20世紀のモダンアートなのです。

《美術》という表現よりも、広義的な《芸術》という名詞で指す作品がモダンアートには正しいのかな?

モダンアートは鑑賞者に委ねられている部分が大きいことも特徴の1つです。

モダンアート全体のテーマの1つが、作品を通し世界の在り方、歴史、社会、人の生き方などを鑑賞者に問いかけることでもあるからです。

対話であると言えます!

トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション 体験レポート

それではようやく本題に!

「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」を横浜美術館で鑑賞してきましたので、“トライアローグの3”にちなみ、見どころも“3”を絡めご紹介します♪

  1. トライアローグ展を紐解く、3つのセクション構成
  2. 新時代の技法を確立した、3人のアーティスト
  3. トライアローグ展に行ったら見逃すな、この3作品!

見どころ①:トライアローグ展を紐解く、3つのセクション構成

「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館」では、年代に区切って、分かりやすく展観されています。

  1. [Section 1]1900sーー アートの地殻変動
  2. [Section 2]1930sーー アートの磁場転換
  3. [Section 3]1960sーー アートの多元化

1900年代を紐解いてみましょう♪

[Section 1]1900sーー アートの地殻変動

ヨーロッパ各地で同時多発的に生まれた新しい概念《抽象芸術》、その多様なイズムを謳うセクションです。

ルネサンスの伝統であった遠近法や単一の視点を解体してしまったパブロ・ピカソの《キュビスム》から始まり、絵画に文字や印刷物を導入するなど、革新的な表現技法を確立した作品の変動期を彩るこのセクションには、アンリ・マティスやマルク・シャガール、アメデオ・モディリアーニ、エドヴァルド・ムンクにパウル・クレー…よく知る近代巨匠作家も並びます。

作品の図案や、色彩、意表を突くような試みから、現代に生きる人々に「芸術を開いていくこと」を追い求めた作家の概念を体感できる構成です。

画像検索しても「タイトル」しか載っていない作品、稀少原画が並びます!公式サイトや作品リストを要チェックや!

[Section 2]1930sーー アートの磁場転換

1930〜50年代まで、第二次世界大戦をはさむ約30年のアートシーンを射程とするセクション。
「シュルレアリスム」から、戦後アメリカの抽象表現主義に至る作家にクローズアップし、世界のアートマップが展観されます。

戦禍で“心の自由”や“開放”を求めた芸術家達が「幻想絵画」に目覚めた時代のアートです。

ヨーロッパを席巻した「シュルレアリスム」から1950年代。
ニューヨークとパリ、双方の都市をまたぎ、大陸や都市や人種を超えて共有されるダイナミズムが確立された時代の、作家の思想を望めます。

シュルレアリスムとは?
1919年~1939年頃にフランスで起こった文学・芸術運動のことで、政治・思想・文学・美術などさまざまな分野に大きな影響を与えました。
代表的な画家には、ジョアン・ミロ、サルバドール・ダリ、マックス・エルンスト、ジョルジョ・デ・キリコなどがいます。

ポール・デルヴォーは時間や場所を越境するモティーフを作品の中に融合することで、白昼夢のような世界を生み出しました。

本展はデルヴォーの選りすぐりの大判作品が3セットで鑑賞できる好機です!現実を超越した夢の世界を、現地でご覧下さい♪

長く続いたパリ一極集中型から、国際規模の連動性に支えられた同時多発型へと磁場転換がなされていった激動期を概観させる3章は、横浜、愛知、富山が所蔵する20世紀コレクションの中でも、質・量ともに充実した内容です。

[Section 3]1960sーー アートの多元化

1950年代の終わり頃より、後続する芸術家たちによって次々と刷新されていくアメリカのアートシーンの影響で派生した、アートの変遷を見せるセクション。
とりわけ70年代以降は「イズム」でくくる事のできない時代が到来。“価値の定まらない”同時代の美術の誕生を、バラエティに富んだ作風で解説してくれています。

ルイーズ・ネヴェルソン『Black Wall』作品写真
“Louise Nevelson’s 1964 ‘Black Wall’ (Washington, DC)” 
by takomabibelot is marked under CC0 1.0.
※当作品は展示されていません。

ルイーズ・ニーヴェルソンの大作『漂う天界』は必見!

※当記事では、(↑写真)著作権の関係で『漂う天界』ではなく、類似の『Black Wall』写真を掲載しています。

今回出展されている作品は、ルイーズ・ニーヴェルソンが脚光を浴び始めた初期の初期の秀逸作!!作家の活動履歴と作品の制作年を照らし合わせて見ることは非常に重要です。

最終章にはファッションやデザインが融合された1960年代のポップアートはじめ、スタイリッシュな作品が華々しく並びます。

第二次世界大戦後、抽象表現主義から枝分かれし生まれたアメリカのアートのスタイルや、廃品を寄せ集めて制作する「ヌーヴォー・レアリスム」のフランス芸術家たちの作品など、大量生産品に囲まれた世界の「新しい」表現方法を模索する様相を感じ得られます…。

作品自体以上に、“アイデア”などの概念に重きを置く、コンセプチュアルアートへ至る潮流が生まれた《現代美術》時代、始まりの章。

見どころ②:新時代の技法を確立した、3人のアーティスト

※文章は「トライアローグ展」の解説パネルより一部引用

1900年代の極彩色な作品ラインナップは、それぞれが名品かつ異色過ぎて、仰る通り一括りにはできません。

そこで今回は、1900年代に生まれた“新時代の技法”を確立するに活躍した、3人のアーティスト作品(技法)をクローズアップすることで、モダンアートをご紹介したいと思います。

ご紹介する3人はこちら!

  1. パウル・クレーの「油彩転写
  2. マックス・エルンストの「デカルコマニー
  3. ジャクソン・ポロックの「ドリッピング」「ポーリング

パウル・クレーの「油彩転写」

パウル・クレーの写真
Alexander Eliasberg (1878–1924),
Public domain, via Wikimedia Commons

スイスを代表する20世紀の画家(美術理論家)であり、表現主義、超現実主義などのいずれにも属さない独自のスタイルを確立したパウル・クレー(Paul Klee/1879-1940)。

「油彩転写」と言われる技法を用いたその作風は独特なものでした。

はじめに「原画」を描き、(最終的に作品となる)白い紙の上に、黒の油絵具を裏面に塗った薄い紙を載せます。その上に原画を重ね、描かれたイメージを尖筆(せんぴつ)でなぞると、一番下の紙に転写されます。
※多くはその後に水彩やペンで加筆され、仕上げられます。

『蛾の踊り』パウル・クレー作品
『蛾の踊り』1923 油彩転写・鉛筆・水彩・紙
愛知県美術館所蔵

転写された線には、直接描く線とは一味違ったゴツゴツとした質感が付与されます。

加えて、その転写の際の指圧や紙の擦れによって、各所にムラが生じ、それらが画面全体の調子となり(時に周辺を暗くぼかし)、中央を浮きがらせる効果をもたらします。

クレー作品はぜひ作家サインもご注目ください!譜面上に描かれる音符の様に筆記されています♪

『蛾の踊り』パウル・クレー作品
部分トリミング『蛾の踊り』1923 油彩転写・鉛筆・水彩・紙
愛知県美術館所蔵

↑『蛾の踊り』も、よくよく集中して作家サインを見つけて下さい☆画面の下、中央あたりに小さくあります。

トライアローグ展の展示風景(横浜美術館)
展示風景 ©横浜美術館

想像的なのは、まさに途中の過程であり、それこそもっとも大切なもので、生成は存在にまさる」という言葉を遺したパウル・クレーは、制作“過程”を重んじていました。

元来は感じとりにくい制作プロセスが、パウル・クレーの無二の作品に“可視化”されています。

横浜美術館が公開している「どんな技法?油彩転写」というYouTube動画がとても分かりやすい!

マックス・エルンストの「デカルコマニー」

マックス・エルンストの写真
Unknown authorUnknown author,
CC0, via Wikimedia Commons

ドイツ人画家・彫刻家であり、超現実主義(シュルレアリスム)の代表的な画家の1人であるマックス・エルンスト(Max Ernst/1891-1976)。

トライアローグ展の展示風景(横浜美術館)
(左)『ポーランドの騎士』、(中)『少女が見た湖の夢』、(右)『森と太陽』いずれもマックス・エルンスト作品
トライアローグ展の展示風景 ©横浜美術館

1927年に発表されたこの『森と太陽』(写真右)は、絵の具をのせたカンヴァスの下に、木目のある板など凹凸のある素材を敷き、パレットナイフなどで絵具を擦り落とす「グラッタージュ」技法で表現されたものです。

タイトルにあるように、《森》を形成する樹々の木目を生かした手法…!

画中の《森》へ、見事に森の生命力を生成!

本展で初めて目にしたこの『森と太陽』ですが、 以前見たスイスの画家、アルノルト・ベックリンの『死の島』を思い起こさせるような印象がありました。

アルノルト・ベックリン『死の島』作品写真
『死の島/Island of the Dead』(1880) アルノルト・ベックリン
MET(メトロポリタン美術館)にてバビが撮影(2018年)

恐怖の影をおとしながらも、‟死”という1つの神秘を描くことで生命を見つめる作品。

「歓喜と息苦しさ」「自由と囚われ」「期待と不安」など、エルンスト自らが綴った文章にあった、森に関する対照をなす言葉を知った時に『死の島』との面影が重なりました。

画像は小さいので、是非「トライアローグ展」に足をお運びください…!


トライアローグ展展示風景写真の他2作品『少女が見た湖の夢』と『ポーランドの騎士』は、絵の具を塗った乾く前の画面に、ガラス板や紙などを押し当てて引き剥がす「デカルコマニー」技法で出来た不均一な形象をもとに描かれています。

デカルコマニーは、幼少期に図画工作で遊んだ方もいるのではないでしょうか☆

デカルコマニーのイメージ写真
デカルコマニー技法

2つ折りにした紙に絵具を入れ、再び紙を開いて偶発的な模様を得る。この手法を駆使したのがマックス・エルンストのデカルコマニーです。

絵の具ののり方、量、圧のかけ方すべてがその日の気分や作者の精神状態によって変動。2つとして同じパターンが生まれないという、実は行き着いた技法でもあります。生じた柄が「何に見えるか?」という問いかけと共に、見手の答えから精神状態を紐解く、心理学にも応用される絵画です。

このような手法で、マックス・エルンストは偶然生み出された形の中に、歴史や神話の登場人物や怪物めいた生き物たちを「発見」し、空想の世界を描き続けました。

今や、当たり前になっている“ファンタジー画風”も、当時は芸術界を刷新する試みでした。

「デカルコマニー」についても、横浜美術館のYouTubeが参考になります↓

ジャクソン・ポロックの「ドリッピング」「ポーリング」

ジャクソン・ポロックの写真
Jackson Pollock

アメリカの画家で、抽象表現主義(ニューヨーク派)の代表的な存在でもあるジャクソン・ポロック(Jackson Pollock/1912-1956)の画法は、アクション・ペインティングとも呼ばれています。

ニューヨーク近代美術館で撮影した写真
『One: Number 31, 1950』
MoMAにてバビが撮影(2015年)

カンヴァスを床に置き、絵具をたらす「ポーリング(流しこみ)」技法や、「ドリッピング(滴らせ)」技法を編み出しました。

とりわけ、ドリップ・ペインティングはジャクソン・ポロックが独自に編み出した技法です。

本展に来ている富山県美術館のポロック作品は、試行し始めた時期の貴重な作例。線の密度は後年の作品に比べれば控え目ですが、中心がなく、画面の外まで広がっていくようなポロックの独自の造形志向がはっきりと見て取れる一作です。

この2つの技法は、「オートマティスム=自動記述」と呼ばれる手法でもあります。

あらかじめ何を描くか決めるのではなく、何も考えることなく、即興かつ、速いスピードで筆を動かし描く……人間の意図や意識を排除しようとする画法でもありました。

ニューヨーク近代美術館で撮影した写真
MoMAにてバビが撮影(2015年)

…が!!

ジャクソン・ポロックは、ただデタラメに塗料をキャンバスに飛ばすのではなく、非常に繊細な作業でその飛び散り具合や重ね合わせる順序、色の配列や塗料の流れを制御していたとのこと。

昨今は、ドリッピングアートをよく目にしますが、絵の具が飛び舞う《パターン》を生み出した先駆者がジャクソン・ポロックなのです。

実際に、リチャード・テイラーという(美術理論の修士号をもつ)物理学者によって、ポロック作品の絵柄はあらゆる拡大率で「フラクタル」だということが証明されています。

ジャクソンポロック作品のクロースアップ
フラクタル

フラクタルとは?
図形の一部分と全体が自己相似(再帰)になっているもの。平たく言うと、どんなに拡大しても複雑な全体図形を維持していることを指します。

こうした解析もあってか、ジャクソン・ポロックの絵画は5000万ドル(約55億円)を超える高値で取引されるものもあります。

「私の絵の源泉は無意識である。私は絵にアプローチするのにデッサンと同じやり方でする。つまり、直接の予備的な習作なしに、である」

―ジャクソン・ポロック

見どころ③:トライアローグ展に行ったら見逃すな、この3作品!

3つの公立美術館のコレクションが響き合う本展を通じて、欧米の近現美術の枠を感じられる作品を…選びに選んで3作品チョイスしてみました。

  1. アンディ・ウォーホル『マリリン』(1967)
  2. フランティシェク・クプカ『灰色と金色の展開』(1920-21)
  3. 3兄弟による3作品

なかなか絞りこむのは大変でしたが、珠玉の3選です♪

1. アンディ・ウォーホル『マリリン』(1967)

“KING OF POP ART”、アンディ・ウォーホルの代表作が来館。

アンディ・ウォーホルが1967年代に作品化した『 マリリン・モンロー(マリリン)』の写真
MoMAにてバビが撮影

※当記事では、(↑写真)著作権の都合でわたしが以前MoMAで撮影した作品を掲載しています。

ポップアートの名手であり、1900年代後半、写真やデザイン、ポスター広告などを含む、大衆に向けた大量生産型アート作品を生み出した先駆者。

モダンアートカルチャーを世に広めたアンディ・ウォーホルの試みは、多くの次世代作家を虜にし、現在も彼に対するオマージュ作品(作風)が絶えません。話題が絶えない覆面アーティスト、バンクシーもその一人。

アンディ・ウォーホルと同時期に活躍したロイ・リキテンスュタインの作品も同ブースにあり、こちらも要チェックです=бωб=

2. フランティシェク・クプカ『灰色と金色の展開』(1920-21)

フランティシェク・クプカ『灰色と金色の展開』愛知県美術館所蔵
フランティシェク・クプカ『灰色と金色の展開』
1920-21 (油彩・カンヴァス)愛知県美術館所蔵

額装とのマリアージュで魅せるフランティシェク・クプカのパターン絵画『灰色と金色の展開』(1920-21)。

(写真にはないですが)まるでトロンプ・ルイユ(だまし絵)の巨匠、エッシャーのパターンを思わせる、寄木細工のような彫刻が施されている額装でした。

あなたなら、この絵にどの様な額をあてますか?

こういった作品に出会うと、絵を生かすも殺すも、額次第だなあとしみじみ思います。

美術展の後味を良くする隠し味は、主役の本体のみならず、 本体を昇華させるに尽力する《額縁》にもあるのです v ( ᵔᴥᵔ )

3. 3兄弟による3作品

「トライアローグ展」第1章に展示されている3作品。

  • ジャック・ヴィヨン『存在』(1920)
  • レイモン・デュシャン=ヴィヨン『馬の頭』(1914)
  • マルセル・デュシャン『アネミック・シネマ』(1926)

これらは、実は3兄弟による作品です(上から順に長男→次男→三男)。

ジャック・ヴィヨン『存在』愛知県美術館所蔵
ジャック・ヴィヨン『存在』1920 (油彩・カンヴァス)
愛知県美術館所蔵

わたしのお気に入り作家になった、長男ジャックによる『存在』(1920)。
ファッションの広告にもなりそうなデザイン画のような絵で、 マスク(仮面)が複数縦に重なって描かれている、何とも言えずスタイリッシュなバランスの絵画でした。

ぜひ本展に足をお運びいただき原画をご覧ください。

ちなみに、3男マルセル・デュシャンはアート界に物議を醸したアーティスト。

マルセル・デュシャンの作品「泉」の写真
“Marcel Duchamp, Fountain” by profzucker is licensed under CC BY-NC-SA 2.0

“美”の定義を問わせた、マルセル・デュシャンのこの作品『泉』(1927)。
男子用小便器に「リチャード・マット(R. Mutt)」という署名をし、『泉』というタイトルを付けた作品で有名です。
※本作の展示はありません。

3館からそれぞれ3兄弟の3作品。なかなかレアです☆

トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 開催概要

※チケット情報や展覧会URLは横浜会場のものになります。

展覧会名
トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション

日時指定予約チケット料金
一般1,500円、大学・専門学校生1,100円、中学・高校生500円、小学生以下 無料、65歳以上(要証明書)1,400円

URL
愛知県美術館:https://www-art.aac.pref.aichi.jp/exhibition/000324.html

■神奈川県横浜市
会場:横浜美術館(〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1)→Googleマップ
期間:2020年11月14日(土)から2021年2月28日(日) 10:00~18:00
休館日:木曜(2月11日を除く)、2月12日(金)、
※入館は閉館の30分前まで
※本展のご観覧当日に限り、「横浜美術館コレクション展」も観覧可。

  • 障がい者手帳をお持ちの方と介護の方(1名)は無料。
  • 団体受け入れ及び団体割引は行っておりません。
  • 観覧無料の方(小学生以下、招待券・障がい者手帳をお持ちの方など)もオンライン日時指定予約が必要です。招待券、証明書等を必ずご持参ください。
  • オンライン日時指定予約では、割引の取り扱いはありません。

愛知県名古屋市
会場:愛知県美術館(〒461-8525 愛知県名古屋市東区東桜1-13-2)→Googleマップ
期間:2021年4月23日(金)から6月27日(日) 予定

富山県富山市
会場:富山県美術館(〒930-0806 富山県富山市木場町3-20)→Googleマップ
期間:2021年11月20日(土)から2022年1月16日(日) 予定

トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 総括

抽象表現主義の画家たちの活躍により、1950年頃から美術の中心地はパリではなくニューヨークであると考えられるようになりました。

今回の「トライアローグ展」、1900年代後半に向かえば向かうほど、色彩はカラフルで、画材・素材もバリエーションが増えていくのが分かると思います。

第3章にもなると、アクリル樹脂や鏡など、材質が立つ作品も増えてきて、画家たちの“選択の自由”も感じます。

描かれるモチーフへの制約や、絵画階級(絵画ジャンルのヒエラルキー)があった、ひと昔前の作家が見たら驚愕することでしょう。。。

絵画のヒエラルキーイメージ図
絵画のヒエラルキーが昔は存在しました

一見、落書きの様に見える作品もあるモダンアートですが、本展に出展されている画家は、各々のジャンルの先駆者であること、そしていずれも持ち合わせている《古典美術》の技術基盤の中で新しい発想や、表現を多様化していったこと…を、各画家のバックグラウンドから知っていただきたいと願います。

第1章の部屋で鑑賞できるピカソも、最初からこのような作風だったわけではないのです。

生涯の中で、何度も画風やそのスタイルに《革命》を起こし、新時代の絵を築いてきました。戦禍の時代を経て、あらゆる物や巡り会った人、その人生の中で失ったもの、得たものから出て来た七色の色や、多様な形。

画家たちの多角的な“視野=ものの捉え方”を疑似体験できる作品ラインナップを持つ「トライアローグ展」は素晴らしいものでした。

ー Art is transition.(変遷) ー

本展の第1章〜第3章までのタイトル通り、「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」では色や形、画材、素材などから時代を経るに連れての、ここ約100年における《変遷》が分かります。

時代ごとに並べてあるので、その流れがとても分かりやすい★ 

各作品にあるキャプション(タイトルカード)に記述されてる、画家が使用した“支持体”や“素材”にもご注目。前知識なしで鑑賞して、1作品でも心に響く作品・作風が見つかったら、ぜひ生みの親である作家さんを調べてみて下さい。

作品=作家

作家の思想に、自分の思想が少しでも重なり共感を得たときに、過去の作家は、あなたのアイデンティティを支える心強い相棒になります。

横浜美術館の施設概要

※横浜美術館の展示室内は撮影不可です。写真は美術館の特別の許可を得て掲載しています。

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トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクションの外看板写真

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